ごときと言われたことに、澄八は内心カチンときた。

 物腰は柔らかいが、澄八は矜持がとても高い。

「僕は、琴禰の初恋の人ですから」

「琴禰の初恋?」

 煉魁は眉を顰める。

「おや、聞いていませんでしたか? てっきりそれを聞いていたから僕に嫉妬して、敵情視察にやってきたのかと思ってしまいました」

 これまで下手に出ていた澄八だったが、昨日の琴禰との会話で、自身の方が優位だと分かったので態度が大きくなっていた。

「は? 俺が嫉妬? お前より何もかもが勝っている俺が嫉妬なんてするわけがないだろう」

 これには当然、澄八はカチンときた。

 言い返そうと口を開いた瞬間、煉魁から殺気のような恐ろしい威圧感が放たれていたので、慌てて口を噤む。

 絶対に怒らせてはいけない相手だと判断した澄八は、先ほどまでの高慢な態度は隠し、柔和な笑みを浮かべる。

「確かにあやかし王に勝てる相手はいませんよね。ちょっとした冗談ですよ。人間界では自分より立場が上な方に、わざとこういう冗談を言って相手と親しくなりたいという意思表示をするのです。そして、偉大な方はその冗談を受け流し、器の広さを証明し周りから尊敬されるという流れです。つい癖で申し訳ありませんでした」