「でも、嫌いじゃないよ。昔の間抜けな琴禰よりよっぽどいい」

(素朴なところに好感を持っていたとさっき言っていたのは嘘だったのね)

 澄八の本性に寒気がする。皆、澄八の人の良い笑顔に騙される。あやかしの方々も、かつての自分も。

 見抜けなかった自分の不甲斐なさが悔しくなる。

「もしもあやかし王を討ち取ることができたら、琴禰を妻にしてやってもいいよ」

 澄八は尊大な顔をして言った。

「何を言っているのですか。桃子と結婚するのでしょう?」

「あの子は気が強くて頭が悪い。名家の肩書が欲しかったから許嫁となったけど、あやかし王を滅ぼしたら、琴禰は祓魔で力を認められるだろうし、なにより桃子より美人だ」

 澄八に値踏みするように体を見られ、寒気がした。

「どうして私が、あなたと……」

「僕はずっと気付いていたよ。琴禰が僕のことを好きだったことを」

 琴禰は驚きと羞恥心で顔が真っ赤になった。

 澄八はおかしそうに笑いながら続けた。

「出戻りしても貰い手がいるのだから、琴禰にとってもいい話だろう。それに、相手は初恋の僕。化け物なんかよりよっぽどいい。どう、やる気が出た?」