憂いのある表情は、人間界でどれほど傷つけられてきたのかが窺い知れる。

「……分かった」

 本当は嫌で、嫌で堪らないし、早く話を終わらせろよ、と言ってやりたい気持ちをなんとか抑えて、煉魁は承諾した。

 過去の辛い出来事も全て打ち明けてほしいし、頼られ、慰めてあげる存在となりたい。悔しい気持ちをぐっと堪える。

 代わりに琴禰に気づかれないように、澄八を睨み付けて牽制し、その場を去った。

 煉魁がいなくなり、会話も聞こえない距離になったことを見計らって澄八が口を開いた。

「あやかし王は随分と幼稚だね」

「感情表現が直球で素直な方なのです」

 澄八は煉魁を嘲ったつもりなのに、惚気で返ってきたので気分を害した。

「あのあやかし王をたぶらかすとは、なかなか」

 たぶらかしているつもりはないが、否定できないので曖昧に視線を逸らす。

「結婚ねぇ。確かに最善の策だよ。あやかし王を目の前にして分かったけれど、あれは化け物だね。祓魔一族が束になったところで傷一つ負わせられないだろう。琴禰なら攻撃の一つか二つくらいなら当たるかもしれないけれど、倒せるかというと難しいだろう。でも、妻となれば話は別だよね。例えば奴が寝入っているときなどに心臓を一撃で刺せば勝機はある」