琴禰の胸の中に湧き上がった一つの希望。

 血の契約を交わしてしまったけれど、行動を起こさなければ何も変わらない。

 今度は祓魔一族を欺く結果になるけれど、それはもう仕方ない。

(私は彼を殺せない)

 殺すくらいなら、いっそ自分が死ぬ。

 あやかし王は、人間界に厄災をもたらす存在なのかどうなのかも、今となっては分からない。

 例え、それが事実だとしても、人間界よりもあやかしの国を優先する。

 琴禰にとって何よりも大事なのは、煉魁になっていた。煉魁の存在が、琴禰の生きる理由だ。

 琴禰は、煉魁の胸に頬を寄せて、そっと抱きしめた。

 煉魁も琴禰の腰に手をまわし、互いに抱き合う。

「煉魁様はいつも私を子供扱いしますね」

「そりゃ、俺にとっては赤子のようなものだからな」

「赤子って、煉魁様は何歳なのですか?」

 琴禰は顔を上げて聞いた。

「う~ん、数えていないが、三百年は生きているのではないか?」

「三百年⁉」

 琴禰は驚きのあまり上体を逸らした。

「琴禰からしたら俺は老人か」

 ハハハと声を上げて煉魁は笑う。

「老人というよりも、神様です」