日をまたぎ、どうにか美香と仲直りする方法を模索したが思い浮かばなかった。 

 何も思いつかないまま一限が終わり十分休みになってしまった。

 机にうつ伏せになって美香と麻衣子の方をぼんやりと眺める。さびしい。

「おっ、髪切った?」

 考え事をしていると尾田くんの声が耳に入ってきた。

 視線をそちらへ向けると、尾田くんが黒のショートカットになった佐藤さんに話しかけていた。

「そうなのー、昨日、駅前の美容室で切ったんだ~」

「いいじゃん、いいじゃん」

「えへ、ありがとう!」

 尾田くんはご満悦な佐藤さんの前を通り過ぎ、椅子に腰を下ろしてスマホを弄っているタグチさんの近くを通りかかった。

「おっ、スマホ変えた」

「えっ、なんでわかったの」

「ここまで新品の香りがしたから」

「うそだぁ」

「うん、嘘。通りかかったから、たまたま言ってみただけ」

「あはは、でも当り! すごいじゃん!」

「まぁね、細かい事に気づく男、尾田だからね」

「なにそれ! ウケるー」

 タグチさんが顔をほころばせながら尾田君を見上げている。

 そんなやり取りを見て、わたしもちょっと愉快な気分になった。


 授業が終り十分休みになると、また視線が机に座っている尾田くんの方へと吸い込まれていった。

「尾田くん、僕のスティーブン・ベルギィ持って来てくれた?」

 真面目そうなタケヤマくんが尾田くんの机の所へやって来た。

「すまん、忘れた」

「ええーっ、早く返してくれよー、たまに聴きたくなるんだからさぁ」

「悪かったよ~、明日、持ってくるって」

「絶対だよ! もう一週間も伸びてるんだから!」

「わかってるよ。まかせろ、俺は約束を守る男、尾田だぜ?」

「なにがだよ~」

 そう言ってタケヤマくんが去っていくと、少し化粧が濃い目で黒い髪をパーマでうねらせたタマキさんが尾田くんの席の脇を通りがかった。

「おう。昨日、新しい動画上げてたな」

「見た見た?」

「見た見た、かっけえじゃん」

「でしょでしょー、夜、公園でレイコと練習したのー」

「俺もいいねしといた。でも、気をつけろよ? 女だけで暗いとこ」

「うん、ありがとね!」

 タマキさんは手を振りながら去って行った。

 尾田君の社交性を目の当たりにし、溜息が出た。