ポッカリとあいたフェンスの端を掴んで足を踏み出し下を見た。

 眼前に、湿り気のある茶色い土に草が生えているのが見える。

 足がすくんで動けなくなった。呼吸が乱れる。

 目を硬く閉じたまま、鉄のように重くなった踵をゆっくりと後ろに下げて後退した。

 後ろへ一歩下がって、ゆっくり目をあけると、緑のフェンスは元通りに戻っていた。

 何も考えず、ぼんやりと遠くの景色を眺める。

 どうして、どうしてこんなふうになっちゃうの……。

 ゆっくりとふたたびフェンスが大きく口を開いた。

 風が吹いて前髪が額をなでた。

 フェンスに吸い込まれるようにして、右足を地面から離した。

「ねぇ、二組の子だよね?」

 不意に後ろから女の子の声が聞こえた。

 聞き覚えのある声のした方をゆっくり振り返ると、ポニーテールをした制服姿の少女が立っていた。

「どうしていつも、ここに一人で居るの?」

 どうしてって……どうしてもだよ……わたしだって、好きで、毎日一人でここにいるわけじゃないよ……。

 少し幼い美香を見ながらそう思った。

「ねぇ、名前は?」

 少しためらった後、口を開いた。

「柳田……絵理奈……」

 そう言って頭を俯かせた。

「ふ~ん、絵理奈っていうの。ねぇ、わたし達、友達にならない?」

「友達……」

 顔を上げ、再び美香の方を向いた。

「わたし美香、片桐美香っていうの! よろしくね!」

 顔を傾け、くったくもなく笑っている美香を見ると、ぼろぼろと涙が頬をつたい落ちた。