「え~、ここは世界史の中でも…………試験にも出すつもりなので…………」

 先生の言葉の合間に私の考え事が入り込んで途切れる。

 何か悪い事した……? 

 今年で卒業なのにずっとこのまま……? 

 文化祭、修学旅行、放課後、いつも一緒だった美香の笑顔が頭の中に思い浮かんでくる。

「…柳田」

「柳田ー」

「おーい、柳田ー、柳田絵理奈ー」

 はっとして顔を上げると、教壇に立っている先生の黒ぶちめがねが目に入った。

「は、はいっ!」

「おいおい、柳田絵理奈はクラスに一人しかいないぞ? さて、解答は?」

「……え、あの……すいません、どこですか?」

 ささやき笑いが聞こえる。

「おいおい、家で受験勉強のしすぎか? 百三十五ページ、問五のカッコ三」

 急いで教科書を開き、問題を確かめノートに筆算した。

「……エックスイコール三十五です」

「おっ、正解。やるじゃん」

 先生が目を見開いて言った。

 解答した後、今日はじめて自分の名前を呼ばれた事に気がついた。