「どこまで書いた?」

 校舎を出て校門へ向かって歩いていると、左にいる高野さんが、そのまた左の小野さんに言った。

「いま五万くらい。春子は?」

 高野さんの下の名前は春子というらしい。やっぱり春が付いたと思った。

「七万ちょい」

「え~、最近はかどらないって言ってたのに、ちゃっかり書いてるじゃん~」

「ふふふ、隠れて書いてたの」

 隣の高野さんを見て、かく? 五万? 七万? なんだろう? と思った。

「あ、あの、かくって何の事?」

「ん? 小説だよ。わたし達、小説書いてるんだぁ」

 そういえば、尾田君たちもそんな話をしていたような気がした。

「そうなんだ、小説……書いてどうするの?」

「コンテストに出すの」

「コンテスト?」

 そんなのがあるんだと思った時に校門を抜けた。

「うん、大賞を取ると、自分が書いた本が出版されて本屋さんに並ぶの」

「へぇ……」

「柳田さんは小説読む?」

「ううん、読んだ事ない」

「読んでみたら? おもしろいよ」

 おもしろい? 国語の教科書だよね? いまいち、おもしろさが想像できなかった。

「どんなの読んでるの?」

 二人は自分が読んでいる本のタイトルと作家名を教えてくれたが、二人とも聞いたことの無い名前だった。ドラマにもなったと教えてくれたが、タイトル違うじゃん、と思った。

「へー、あの原作って小説なんだ。てことは、大賞取ったらドラマになるってこと?」

「そういうこともあるね。でも、まぁ、大賞なんてそうそう取れないんだけどね。何千人中のたった一人だよ?」

「そんな確率なんだ。でも、ドラマになったらテレビに名前出るんでしょ? 原作、高野春子って」

「ははっ、そんな事になったらね。夢のまた夢。ちなみにペンネームだから、春風黄色(はるかぜきいろ)って出る予定。この子は幸白恋(ゆきしろれん)」

 小野さんは顔をひょっこり出して恥ずかしそうに笑った。

 はぁ、ちゃんと将来の事考えてるんだ。ちゃんとした夢があって挑戦して。わたし、いつも何してたっけ? 美香と恋話だ……いや、一応、受験勉強もしてる……。

 少し恥ずかしくなった。

「そういえば、柳田さん体調大丈夫?」

「えっ、何が?」