小野さんと一緒に、春野さんの机に、ひとつ後ろの机を逆さにしてくっつけた。

 小野さんが春野さんと向かい合って座った。

 わたしは近くから椅子を拝借し、横に座った。

 背筋がピンと延びている小野さんが眼鏡の位置を整えた。

「どうする?」

 同じく眼鏡をかけた春野さんが机の上にノートを開いた。

「チョコバナナとかよくない?」

 春野さんがノートにチョコバナナと記した。わたしが書く丸みを帯びた文字とは違い、各部が綺麗に払われ、達筆で知性が感じられた

「うんうん、クレープとかもあるよ」

「うんうん、クレープもかわいい~」

 春野さんがノートにクレープと記した。

「柳田さんは何か案ある?」

「えっ!? あ、その……わたしも、チョコバナナが、いいかな……」

 春野さんはチョコバナナの後ろに英語のTの字を書いた。

 その後も二人がいくつか案をあげ、春野さんがノートに記していった。

 わたしは横から話し合いを見ながら、黙っていた。

「はいっ、じゃあ、案は出ましたか? 黒板に書いていきましょう」

 先生がそう言うと、学級委員長のナカジマくんとホンドウさんが教壇の上へ上がった。

 ナカジマくんが教室内を見回す。

「じゃあ、廊下側のグループからお願いします」

 チョコバナナ、と声が上がり、ホンドウさんが黒板に白いチョークでチョコバナナと書いた。

 わたし達のグループに回ってくるまでに、ノートに記された案はすべて黒板に書き出されてしまった。

 わたしはチョコバナナと一言発しただけで、この時間は終わった。

 机と椅子を元の場所に戻し、小野さんは鞄を取りに自分の席へ戻って行った。

 そうだ、帰りくらい名前を呼んで別れよう……。

 先ほどまでのの自分のふがいなさを挽回するために、意を決して春野さんに声をかけた。

「あ、あの、春野さん」

「高野です」

「あっ、ごめん」

 あれ? 春がついたと思ったんだけど……。

「何か?」

「いや、その」

 口ごもっていると、鞄を肩にかけた小野さんが戻ってきた。

「お待たせ。どうしたの?」

 今さら、じゃあねとか言いにくい……そうだ、一緒に帰ろう……いや、でも……と悩んだ末、時間も無いので思いきって言った。

「あの、一緒に……帰ってもらえない?」

 自分でもおかしなニュアンスだと思った。

「いいよ。ね」

 意外にも高野さんが即答し、小野さんも相槌を打った。

 おぉ……と、ちょっと思ったが、やっぱり、どうしよう……と思いながら、自分の席から鞄を取って来て三人で教室を出た。