「ハッピーバースデー侑莉」
4月1日。12時。
今日はわたし、黄瀬侑莉の記念すべき15回目の誕生日。
ランチの時間に家族でちょっとしたパーティーみたいな食事会。
パパとママが今年もおいしいごはんと、かわいいケーキでお祝いしてくれる。
クリームがバラの形になっていて、ところどころパステルカラーで最高にかわいい。
「ありがとう」
ロウソクの火を吹き消したわたしは満面の笑みで返す。
プレゼントだって毎年豪華。
少しずつ大人に近づいてるからって、甘い香りの香水。
それにわたしの好きなブランドのワンピース。最近のばしてる髪に似合いそう。
パパ、ママ、大好きだよ。
二人の子どもに生まれて幸せ。
でもね、わたし、この日が一年で一番嫌いなの。
自分の誕生日が大嫌い。
よりによって、どうして4月1日なんかに生まれてきちゃったのかな。
って毎年思ってる。
今日から15歳。
よく勘違いされるけど、学年で一番最初に誕生日を迎えたわけじゃない。
4月1日って、学年の一番最後の誕生日なんだよね。
ちょっとややこしいけど……
学年は4月1日に切り替わるけど、4月1日生まれは前の学年ってことになってる。
1月から3月に生まれた人と同じ、いわゆる早生まれってやつ。
つまりわたしは、今日から15歳で、今日から高校一年生。
***
15時。
「ゆーりちゃ〜ん」
ランチから帰ってきてコンビニに行こうとしていたところで、すぐ後ろのちょっと高い位置からの声。
いまだに慣れない大人の男の人みたいな低音ボイス。
それでいて、子どもみたいなふざけた呼び方。
振り返ったら、見上げるくらいの身長のパーカー姿の男子。
「臣」
わたしの顔を見た彼はニコッとうれしそうに笑う。
こういうところ、昔からずっと変わらない。
「エイプリルフールおめでとう」
「つまんないよ、それ。毎年毎年もうあきた」
「侑莉のそのイヤそうな顔が見たいんだもん」
そう言って笑う生意気な彼、身長が高くて声も低くて年上のお兄ちゃん……に、見えるけど、年下の幼なじみ白橋臣・14歳。
臣は毎年〝誕生日おめでとう〟って、絶対に素直に言わない。
「臣、また背のびた?」
コクっとうなずく。
今日から中学三年生の幼なじみは、成長 著しい。
なんて思ってたら、
「わっ! ちょっ……」
臣が急に抱きしめてくる。
「もう侑莉のこともすっぽり包みこめるよ」
大人びた声が耳の近くで響いてドキッとする。
だけど一瞬でおしまい。
「臣!」
ぐいっと彼の身体を押しのける。
「ここ、道の真ん中! 冗談でもそういうことしないで。もう子どもじゃないんだから」
臣は「ちぇっ」って顔をする。
「臣、どんどん女子に対する距離が近くなってるんじゃない?」
「え?」
「よくわたしに抱きつくし、学校でよく女の子と一緒にいる」
「あんなの友だちじゃん。二人きりでいることなんかないし、抱きついたりしないよ」
嘘つき。
「侑莉、ヤキモチやいてんの?」
「そんなんじゃない。臣がセクハラで訴えられないように年上として忠告してあげてるの」
かわいくない、わたしの言葉。
「ふーん」
少し怒ったような彼の顔。
「もう、ついてこないで!」
コンビニについてこようとする臣によけいな一言。
ますますかわいげがない。
サイテーすぎる。
こんな気持ちの今の顔を見られたくなくて、コンビニに向かって駆け出す。
「侑莉!」
ほんの少し遠くなった臣の声。
気配も少しずつ遠くなっていく。
「今夜行くから」
「来なくていいっ!」
振り向きもしないで言う。
……わたしってほんとにかわいくない。
***
わたしと臣の家はとなり同士。
生まれた時からずっと臣がそばにいた。
年上ぶってるけど、ほんとは全然そんなことなくて、いつだって臣に助けてもらってる。
嫌いな食べ物だって
『ゆり、トマトきらーい!』
『たべてあげるよ』
一人でいたくなかったお留守番の時だって
『ぼくも、ゆりちゃんちにいてあげる』
なかなか馴染めなかった水泳教室だって
『行きたくない。だれもゆりと話してくれないんだもん』
『ならおれも水泳始める』
いつだって、臣に守られてる。
『どっちがお姉さんか、わからないわねえ』
『臣くんの方が大人だな。ははは』
まわりの大人たちだってそう言ってる。
だけど、そう言われるたびに思い知らされるの。
〝わたしの方が年上なんだ〟
って。
***
いつもいつも助けてくれる臣が好き。
いつもいつも意地悪してくる臣も好き。
あんな風に急に抱きしめたれたら、ほんとはいつもいつもドキドキするんだよ。
〝わたしだけにして欲しい〟って、
〝ほかの子にはしないで〟
って、思うんだよ。
背、もうのびなければいいのに。
声だって、かわいいままで良かったのに。
男っぽい匂いなんてしなくていいのに。
〝臣が男の子なんだって、わたし以外気がつかなければいいのに〟
って思ってるんだよ。