「紫外線には気をつけてね。色が抜けやすくなるから」

 すべてを終えてレジカウンターに向かうと、預けていたスプリングコートを受け取って会計を済ませた。
 忙しい快永さんに代わってほかのスタッフが会計業務を担っている場面は今までたくさん目にしてきたけれど、なぜか私のときにはいつも最後に見送るところまで付き合ってくれる。これだけでもかなり得した気分だ。

「次は来月かな?」
「はい。今度はカットをお願いしたいです」
「今予約しとく?」

 彼がカウンター内のパソコンで予約状況を確認していると、すぐそばにある入口のドアが勢いよく開いた。

「よかった、いた! 快永さん、注文していたシャンプーを取りにきたの」

 キャメル色のトレンチコートを着た女性がウキウキとしながら快永さんに話しかけた。
 彼は今、私と話していたのに、まるで目に入っていないみたいだ。
 横入りした自覚など一切なさそうな彼女の態度に圧倒されて、私はそのまま押し黙ってしまう。

「シャンプー、届いてますよ。ちょっと待ってくださいね」

 快永さんは長い髪をふんわりと巻いたその女性を上手に交わし、再び私のほうへ視線を向けてくれたのだけれど。
 彼女は隣にいる私が目障りだとばかりに突如ギロリと睨んできた。もちろん、快永さんからは見えない角度で。

「……あ、あの……私はあとでいいので」

 彼女の用件を先に済ませてもらってかまわないと自ら引き下がると、快永さんは苦笑いをしてコクリとうなずいた。
 そして取り寄せの商品を置いているバックヤードへ足を向ける。