雄二に初めて瑞希さんを紹介されてからおよそ2ヶ月が経ち、季節は冬に近づいてきた。今日は11月15日の日曜日。あれからほぼ毎週のように日曜日は2人と遊ぶようになった。
ここ2週間はテスト期間と瑞希さんの用事が重なったから、三人で遊ぶのは少し久しぶりだ。今日は近くの遊園地で遊ぶことになっている。
遊園地の入り口でスマホをいじらながら待っていると「鈴木さーん、お待たせしました」という瑞希さんの声が微かに聞こえた。横を振り向くと、小走りで近づいてくる瑞希さんの姿が見えてきた。
一生懸命走っていそうな姿が面白くて、ふっと吹き出してしまった。
「瑞希さん、そんな一生懸命走らなくていいよ。ゆっくりでいいから」
と、少し声を張り上げて瑞希さんに伝える。すると、一緒に来るはずの雄二の姿が見えないことに気づいた。
やっとそばまできた瑞希さんに尋ねる。
「あれ、今日雄二は?遅刻?」
「えっ、連絡来てないですか?今日はなんか急にバイトを頼まれたとかで来れないそうですよ」
「えぇ、バイト?」
いやいやバイトくらい頼まれたって、彼女とデート(僕もいるけど)なんだから断れよ、と喉まで出かけたがグッと堪えた。きっと顔に出していないだけで瑞希さんが1番悲しいだろう。僕なんかより。
「でもよかったの?雄二いないなら今日は無しにしてもよかったのに」
すると、瑞希さんは恥ずかしそうに、
「実は遊園地なんて小学校以来くらいですっごく楽しみにしてたんです。だから...」
と、俯きながら言った。
めっちゃ可愛い。今日の瑞希さんはハーフアップをしていて、少し制服っぽいワンピースに茶色いコートを羽織っている。周りを見渡すと、行き交う人々が瑞希さんをチラチラ見ている。誰が見てもすごく可愛いんだろう。そんな人と俺が歩いて良いのか。
というか、雄二は自分の彼女を仮にも他の男と2人きりにしていいのか。そう思うと俺が2人から全く男として見られていないような気がして少し悲しかった。
気を取り直して、
「まあ、もう早速入ろうか」と明るく瑞希さんに声をかける。
「はいっ、最初はどのアトラクションから行きましょうか」
そして、2人で遊園地にはいった。
「はぁー、結構乗ったね」
「ちょっと疲れちゃいましたねぇ」
時刻は午後3時半。遊園地にはいってから約5時間半経った。今は少し休憩するために、2人でベンチに座っている。
「それにしても瑞希さん、お化け屋敷全然怖がってなかったね。結構びっくりしたよ」ちょっと前に行ったお化け屋敷の様子を思い出しながら言った。
「むしろ、真也さんの方が怖がってませんでした?」くすくす笑いながら瑞希さんが言葉を返す。
「だって、あれ結構怖かったよ。いやでも瑞希さんああいうの強いんだね」
すると、瑞希さんがふふふ、と微笑んで「怖いのには慣れてるんです」と言った。
「へぇー、ホラーとか好きなんだ。僕、小学生の時にリング見てトイレに行けなくなったなぁ」
すると、瑞希さんがぷっと吹き出して、「なんですか、それ。めっちゃ可愛いじゃないですか」と笑った。
笑われた恥ずかしさで、水をごくごくと飲んで上を向いていると瑞希さんが何かに気づいたように言った。
「その首につけてるやつネックレスですか?」
あぁ、と声を出しネックレスを指で掴みながら「これ、昔もらったものなんだ。それ以来ほぼ毎日つけてるんだ」と返した。
瑞希さんは優しい笑顔でこちらを見て
「なんだか今日は真也さんの可愛いところがたくさん見れましたね」と言った。
まただ。この笑顔を見ると胸が高鳴る。でも高鳴るだけじゃなくてきゅっと締め付けられる感じ。
時計を見ながら瑞希さんが「じゃあそろそろ帰りましょうか」と声をかけてきた。僕は、自分のちょっと熱くなった顔を見られたくなくて瑞希さんのいない方向を向きながら「そうだね」と頷いた。
そして出口を出て、いつものようにあまり会話を交わさず一緒に歩き続けた。なんだか今何かを話すと、何かが溢れそうだったのだ。
15分ほど歩いたところで瑞希さんが「じゃあ、私ここら辺で」と言った。
「あぁそうだね」
瑞希さんは僕の方をまっすぐと見て、
「じゃあまた。さようなら」と笑顔で手を振った。
僕もぎこちなく笑って手を振った。
それから彼女と雄二の三人で遊ぶことはなかった。雄二から、遊園地で遊んだ翌々週に「別れた」と報告されたのだ。
別れた理由はこれと言ってないらしい。ただなんとなく別れる雰囲気になった、と。僕もなんとなく雄二の辛そうな顔を見て深くは聞けずはっきりとした破局理由は聞けなかった。
そして年が明けた。
最後に瑞希さんに会ってから半年以上経ち、僕と雄二は高校3年生になった。再び同じクラスになったが、雄二は最近元気がなく少しやつれ気味で、前ほど話さなくなってしまっていた。声をかけても、心ここに在らずという感じで心配になるくらいだ。
僕はというと、瑞希さんの存在を忘れるために、ただひたすらに勉強に打ち込んでいる。
あれから何回か、学校の帰りに瑞希さんの高校の近くを歩いたりしてみたが、瑞希さんに逢えるわけもなく、親友の元カノに何しているんだという自己嫌悪から最近はしないようになった。
そして春が過ぎ気温もだいぶ上がってきた5月の中旬のことだった。
その日僕は昨日遅くまで勉強していたこともあり、10時を過ぎても布団に入っていた。
突然携帯の着信音が鳴り、開かない瞼を擦りながら携帯を見ると発信元は雄二だった。最近では珍しかったので、急いで携帯を取り「どうしたんだよ」と声を掛けた。
雄二はなかなか返事をせず、眠かったのもあって少しイライラした僕はもう切っていいかな、などと考えていた。
すると、突然雄二の鼻を啜る音や嗚咽が聞こえてきた。なんだか胸が嫌な予感に埋め尽くされてざわざわする。
「真也、あのな、落ち着いて聞いてくれ」
嫌だ。
何かわからないけど、嫌な予感がする。
やめてくれ。
「瑞稀が2日前に死んだ。今日葬儀があるんだ。一緒に行かないか」
ミズキガフツカマエニシンダ。キョウソウギガアルンダ。
意味を理解するまでに時間がかかった。
魂が抜けたように、ただ茫然としていた。
ここ2週間はテスト期間と瑞希さんの用事が重なったから、三人で遊ぶのは少し久しぶりだ。今日は近くの遊園地で遊ぶことになっている。
遊園地の入り口でスマホをいじらながら待っていると「鈴木さーん、お待たせしました」という瑞希さんの声が微かに聞こえた。横を振り向くと、小走りで近づいてくる瑞希さんの姿が見えてきた。
一生懸命走っていそうな姿が面白くて、ふっと吹き出してしまった。
「瑞希さん、そんな一生懸命走らなくていいよ。ゆっくりでいいから」
と、少し声を張り上げて瑞希さんに伝える。すると、一緒に来るはずの雄二の姿が見えないことに気づいた。
やっとそばまできた瑞希さんに尋ねる。
「あれ、今日雄二は?遅刻?」
「えっ、連絡来てないですか?今日はなんか急にバイトを頼まれたとかで来れないそうですよ」
「えぇ、バイト?」
いやいやバイトくらい頼まれたって、彼女とデート(僕もいるけど)なんだから断れよ、と喉まで出かけたがグッと堪えた。きっと顔に出していないだけで瑞希さんが1番悲しいだろう。僕なんかより。
「でもよかったの?雄二いないなら今日は無しにしてもよかったのに」
すると、瑞希さんは恥ずかしそうに、
「実は遊園地なんて小学校以来くらいですっごく楽しみにしてたんです。だから...」
と、俯きながら言った。
めっちゃ可愛い。今日の瑞希さんはハーフアップをしていて、少し制服っぽいワンピースに茶色いコートを羽織っている。周りを見渡すと、行き交う人々が瑞希さんをチラチラ見ている。誰が見てもすごく可愛いんだろう。そんな人と俺が歩いて良いのか。
というか、雄二は自分の彼女を仮にも他の男と2人きりにしていいのか。そう思うと俺が2人から全く男として見られていないような気がして少し悲しかった。
気を取り直して、
「まあ、もう早速入ろうか」と明るく瑞希さんに声をかける。
「はいっ、最初はどのアトラクションから行きましょうか」
そして、2人で遊園地にはいった。
「はぁー、結構乗ったね」
「ちょっと疲れちゃいましたねぇ」
時刻は午後3時半。遊園地にはいってから約5時間半経った。今は少し休憩するために、2人でベンチに座っている。
「それにしても瑞希さん、お化け屋敷全然怖がってなかったね。結構びっくりしたよ」ちょっと前に行ったお化け屋敷の様子を思い出しながら言った。
「むしろ、真也さんの方が怖がってませんでした?」くすくす笑いながら瑞希さんが言葉を返す。
「だって、あれ結構怖かったよ。いやでも瑞希さんああいうの強いんだね」
すると、瑞希さんがふふふ、と微笑んで「怖いのには慣れてるんです」と言った。
「へぇー、ホラーとか好きなんだ。僕、小学生の時にリング見てトイレに行けなくなったなぁ」
すると、瑞希さんがぷっと吹き出して、「なんですか、それ。めっちゃ可愛いじゃないですか」と笑った。
笑われた恥ずかしさで、水をごくごくと飲んで上を向いていると瑞希さんが何かに気づいたように言った。
「その首につけてるやつネックレスですか?」
あぁ、と声を出しネックレスを指で掴みながら「これ、昔もらったものなんだ。それ以来ほぼ毎日つけてるんだ」と返した。
瑞希さんは優しい笑顔でこちらを見て
「なんだか今日は真也さんの可愛いところがたくさん見れましたね」と言った。
まただ。この笑顔を見ると胸が高鳴る。でも高鳴るだけじゃなくてきゅっと締め付けられる感じ。
時計を見ながら瑞希さんが「じゃあそろそろ帰りましょうか」と声をかけてきた。僕は、自分のちょっと熱くなった顔を見られたくなくて瑞希さんのいない方向を向きながら「そうだね」と頷いた。
そして出口を出て、いつものようにあまり会話を交わさず一緒に歩き続けた。なんだか今何かを話すと、何かが溢れそうだったのだ。
15分ほど歩いたところで瑞希さんが「じゃあ、私ここら辺で」と言った。
「あぁそうだね」
瑞希さんは僕の方をまっすぐと見て、
「じゃあまた。さようなら」と笑顔で手を振った。
僕もぎこちなく笑って手を振った。
それから彼女と雄二の三人で遊ぶことはなかった。雄二から、遊園地で遊んだ翌々週に「別れた」と報告されたのだ。
別れた理由はこれと言ってないらしい。ただなんとなく別れる雰囲気になった、と。僕もなんとなく雄二の辛そうな顔を見て深くは聞けずはっきりとした破局理由は聞けなかった。
そして年が明けた。
最後に瑞希さんに会ってから半年以上経ち、僕と雄二は高校3年生になった。再び同じクラスになったが、雄二は最近元気がなく少しやつれ気味で、前ほど話さなくなってしまっていた。声をかけても、心ここに在らずという感じで心配になるくらいだ。
僕はというと、瑞希さんの存在を忘れるために、ただひたすらに勉強に打ち込んでいる。
あれから何回か、学校の帰りに瑞希さんの高校の近くを歩いたりしてみたが、瑞希さんに逢えるわけもなく、親友の元カノに何しているんだという自己嫌悪から最近はしないようになった。
そして春が過ぎ気温もだいぶ上がってきた5月の中旬のことだった。
その日僕は昨日遅くまで勉強していたこともあり、10時を過ぎても布団に入っていた。
突然携帯の着信音が鳴り、開かない瞼を擦りながら携帯を見ると発信元は雄二だった。最近では珍しかったので、急いで携帯を取り「どうしたんだよ」と声を掛けた。
雄二はなかなか返事をせず、眠かったのもあって少しイライラした僕はもう切っていいかな、などと考えていた。
すると、突然雄二の鼻を啜る音や嗚咽が聞こえてきた。なんだか胸が嫌な予感に埋め尽くされてざわざわする。
「真也、あのな、落ち着いて聞いてくれ」
嫌だ。
何かわからないけど、嫌な予感がする。
やめてくれ。
「瑞稀が2日前に死んだ。今日葬儀があるんだ。一緒に行かないか」
ミズキガフツカマエニシンダ。キョウソウギガアルンダ。
意味を理解するまでに時間がかかった。
魂が抜けたように、ただ茫然としていた。