「そうそう、私のバイト先で会ったんですよ」
「瑞希が綺麗すぎてつい声をかけちゃったんだよな」
 あはは、何ですかそれ、と彼女は雄二の肩を叩く。
 日曜日の昼ということもあって、少し混み合っているファミレスで、目の前には親友とその彼女がいる。
 彼女の名前は菅谷瑞希。僕たちの一個下で、女子校に通う高校一年生。カフェでバイトをしていて、その際に雄二に出会ったらしい。
「真也さん、苗字はなんていうんですか?」彼女に急に声をかけられ、少し胸が高鳴った。落ち着け、彼女は親友の彼女だ。ふぅ、と心の中で息を吸って、
「鈴木だよ。鈴木真也。いやぁ、しかし雄二がこんな綺麗な彼女を連れてくるなんてびっくりしたよ」と冗談めかして言った。
「えぇ、わたし綺麗ですか?嬉しい」
と言いながらにっこりと笑う姿はもう本当に可愛い。って、いやいや何言っているんだ。親友の彼女だぞ?落ち着かなきゃ。
 雄二は嬉しそうに、「いやー、本当だよな。こんな綺麗な彼女紹介できて幸せだわ」と言い、菅谷さんと笑い合った。
 雄二が腕を菅谷さんの肩に乗せるのを見て、なんだか胸がちくっとした。
 すると雄二は何か思い出したように、あっ、と呟き「そういえば今日用事あったんだ。瑞希紹介できたし、そろそろ解散しようか」と言った。
 三人で店を出て、雄二と菅谷さんが共に歩く姿を後ろから見つめていた。
 心底、お似合いだなと思う。イケメンな彼氏に綺麗な彼女。すれ違う人たちもこの2人をチラチラと見ている。
 それに引き換え、シンプルな白シャツにダボダボなジーンズ、寝癖のついた頭。どこをどう見たって、連れだとは思われないだろう。そう思うと、何だか胸がチクチクした。今までこんなことなかったのに。
 駅まで着くと、雄二は電車で帰るらしく菅谷さんと2人になった。雄二に、変なこと言うなよ、と釘を刺されたが菅谷さんを笑わせたかったから、小中学校時代の雄二のバカ話を話した。
 菅谷さんは、僕のする話全てにふわっと笑ってくれて口数の多い帰り道ではなかったけど、なんだか満たされた気分だった。
「でも菅谷さん、すごいね。あの女子校ってかなり難しいよね」
「いやいや、そんなことないですよ。それにあんまりテストよくないですから」と笑顔で言った後に少し真面目な顔になり、
「それと、菅谷さんじゃ少し堅苦しいので下の名前で呼んでください。瑞希って」
「瑞希!?」驚きのあまり、つい大声を出してしまった。周りからジロジロと見られた恥ずかしさで、ゴホンとわざと咳をして言った。
「じゃあさん付けにしようかな。瑞希さんで。これでどうかな」
「良いですね。ありがとうございます。じゃあわたしここら辺なので。また会いましょうね」
 ニコッと笑顔で手を振られてカチコチに固まった腕でぎこちなく手を振り返した。
 何だか胸がふわふわしていた。
 人生で初めての気分だ。
 この気分は夜まで続き、妹には、お兄ちゃんきもい、と言われ続けていた。