「……じ、冗談言わないで!」

だが、そんな事空蒼には今はどうでもいい。
バッ!とその人から離れ、数歩後ろに後ずさる。


――ドクンッドクンッドクンッドクンッ

また心臓の音がうるさい。
周りの人に聞こえるのではないかと言うくらい、音が大きい。

「あのなぁ…冗談でそんな事言うと思ってんのか?」
「……。」

彼は呆れた顔をしているが、どうして冗談に言っているように見えないのだろう。
空蒼は否定したい、そんな温かい言葉に慣れてしまったら裏切られた時が怖い。
否定して、罵ってくれればいい、他の人と同じように。じゃないとその言葉を受け入れてしまいそうになってしまう、それくらい彼は優しい目をしていた。

空蒼は彼の目を見て目を伏せた。

(有り得ない……この目を見て綺麗だなんて…)

お願いだからもうそれ以上言わないでほしい。
今まで散々蔑まされ、気持ち悪がられたこの目を綺麗だなんて思うはずがない。
絶対、騙されてたまるか。

空蒼はまたフードを両手で抑える。

「…もしかしてお前、その目を隠すためにそんなの被ってんのか?」
「っ……」

図星なので何も言えない。
いや、図星じゃなくても何も言わない。

「お前……」

目の前の彼はそんな空蒼をじーと見つめてきているのか、すごい視線が突き刺さってくるのが肌で感じた。

(なんでそんなに見てくるの?居心地が悪い…)

早くここから居なくなりたいのに気持ちの空蒼は、この人達のせいで足止めを食らっている為、どうしたら見逃してくれるか考える。

「ちょっと!土方さんだけずるいですよぉ!俺にも見せて下さい!」

すると、そう言った青年が空蒼の近くに来るなりフードを取ろうとしてきた。
それに素早く反応した空蒼。

「っ…さ、触んな!」

――バシッ

「っ……」

フードに青白い細い腕が伸びてきたので、反射的に青年の手を叩いてしまった。
青年は歪んだ顔をしている。

(あ…)

そんな光景を見て何故だか胸が痛んだ気がした。

「おい総司…無理やり見ようとすんなよ、嫌がってんだろうが」
「す、すみません朔雷さん!」
「……。」

総司と呼ばれる青年は口の悪い彼に注意されると、頭をペコペコと下げてきた。

(…どうして?この場合あたしが謝るべきなのに…どうして貴方が謝ってるの?)

そんな光景に空蒼は疑問を浮かべる事しかできなかった。
人の嫌な事をしたら謝るのは当然だけど、謝られた経験が浅いのか空蒼にとっては疑問にしかならない。