「でもね、守くん」
一拍置いた後、俺の名前を口にする。
「この気持ちは今日で一旦ストップしてもいいかな?」
今日でおしまいじゃなくてストップ?
引っ掛かりを感じるが、芽生に聞き返すことができない。
でも、まぁ、芽生が決めたことだから。
「自分勝手な私でごめんね」
芽生が謝ることじゃない。
自分勝手じゃない。
むしろ、俺は……。
「これからは、彼の気持ちに向き合おうと思うんだ」
強い意志と覚悟を決めた彼女に、俺は強く頷く。
うん、それがいいと思う。
「いつまでも過去を引き摺ってばかりじゃダメだってことに最近気付いたの。それに、私はもう28だよ? いつまでも独身って訳にはいかないじゃん。周りはもうほとんどの友達が結婚してるし、幼い子供もいる」
ところどころ笑いを交えながら話す彼女を見て、心底安心した。
だって、無邪気な笑顔を浮かべてるから。
大人になっても昔の面影があって、嬉しくなって俺も笑みを浮かべる。
「ねぇ、守くん。私、新しい人生送ってもいいかな?」
そんなのいいに決まってる。
芽生の人生だから、芽生の生きたいように生きろ。
辛いことたくさん乗り越えてきたんだ。
きっと、これからは良いことがたくさん待ってるはずだ。
「私、守くんの分まで生きるから。だから、いつかそっちの世界に行った時には、あの頃の続きをしようよ」
芽生からの約束に涙が出そうなほど嬉しくなる。
もう1度、俺の隣に芽生が来てくれる。
いつか本当にその時が来たら、精一杯生きた君を抱きしめるから。
ずっと芽生の側にいる。
気持ちもたくさん伝える。
しつこいと笑われるくらい何度だって言葉にするから。
「それまで私は私らしく生きるから。何年、いや、何十年かかるけど、待ってて」
うん、待ってる。
気長に待ってるから。
「その時までさよなら、守くん。今までありがとう」
こっちこそありがとう。
芽生の幸せを心から願ってる。