「ねぇ、守くん。こんなこと言ったら怒る?」

泣き止んだ芽生は恐る恐る口にする。

「私ね、先月、職場の方から告白されたの。結婚前提にお付き合いしたいって」

その言葉を聞いて、動揺はしなかった。

今日ここに来てくれた時点で、なんとなくそのこと伝えてくるだろうなと思ったからだ。

長年、芽生の姿を見守ってきたんだ。

最初、芽生の前にあいつが現れたとき嫉妬した。

俺の彼女だからとるな!とも思った。

でも、月日が経ちその気持ちは徐々に変わった。

今では、相手の男性に怒りが込み上げてくることはない。

「その方はね、私の2つ上で、とても優しい方。それに、あの日、彼も被災した1人なの。それでね、前に守くんのこと彼に話したことがあるの。私の話し最後まで聞いてくれて、涙が止まらない私にそっとハンカチを渡してくれた素敵な人」

俺は芽生の涙を拭えない。

辛い時側にいてあげられない。

でも、彼なら芽生の側にいてあげられる。

芽生の涙を拭ってあげられる。

芽生のこと本気で想ってくれてる。

大切にしてくれてる。

彼ならきっと芽生を幸せにしてくれるはずだ。

そう思うのに、芽生はなんだか浮かない表情を浮かべてる。

「だけど、返事は保留にしてるんだ。どうしても1歩を踏み出せなくて……この1ヶ月、ずっと考えてたの。私はどうすればいいのかって。それで、やっと決めた。だから、守くんに伝えるために、今日、ここに来たの」

顔をあげた芽生から決意の表情が感じ取れる。

「私……」

芽生の発する言葉に、ごくりと唾を飲み込む。

覚悟はしてる。

なのに、緊張してしまう。

「私ね、今でも守くんのことが好き」

思ってもみなかった言葉に激しく動揺する。

「短い恋だったけど、この13年間、守くんのこと忘れた日はないよ。これからも、守くんのこと忘れたくない」

なに言ってんだよ、芽生!

俺のことは忘れていいから、あいつと幸せになれよ!

「残酷な別れだったけど、守くんが私の初恋の人で良かったって思うんだ」

それは嬉しいけど、これからの未来が芽生にはあるんだ。

だから、芽生、考え直してくれ。

そんな俺の気持ちが伝わったのか分からないが、芽生の表情が真剣なものに変わる。