「好き、か……」

 好き……って、なんなんだろうな。 俺にはよく、分からない。

「お前をここまで愛してくれる女なんて、この先いないと思うけどね、俺は」

「そうか……?」

「それに、交際ゼロ日婚なんて、別に今時珍しくもないだろ」

 来栖はそう言いながら、「お前をこんなに愛してくれる女が現れて、俺は嬉しいけどね」とビールを飲み干す。

「そんなに愛されて、羨ましいくらいだよ」

「そう……か?」

「いっそのこと、その子と結婚しちゃえば?」

「いやいや、そんな簡単な話じゃないだろ……」

 元教え子と結婚なんて、想像すら出来ない。 それに、俺はきっと結婚には向かない気がする。
 自分が結婚して誰かと一緒に生活している姿を、全然想像出来ない。 そもそも、俺は一人で生きていくことが精一杯なのに……。
 もし矢薙と結婚したとして、俺は矢薙と共に歩んで行けるのだろうか。この先の人生を……。

「好きな人と結婚したいと思うのは、普通のことなんだよ。 それが矢薙って子にとっては、お前ってことだよ」

「は?……なんだ、急に」

「とにかく、前向きに考えてみたら?結婚。 この先ずっと一人ってのも、寂しいもんだよ」

 来栖に言われると、なんか妙に説得力があるような気がしてしまうな。