なるほど……。それが咲音の考えってことか。
 
「脅迫罪……? 刑務所……?」

 母親の表情が次第に曇っていくのが分かる。

「そうよ。アンタは犯罪者になって、私たちからも世間からも見放され、そこから先地獄を味わうでしょうけど。……それでもいいなら、そのお金受け取ってもいいよ」

 咲音がそう言うと、母親は「やめて……それだけはイヤよ……。犯罪者にだけは、なりたくない! お願い咲音!それだけは……それだけはっ……!」と咲音に泣いて縋りつく。

「……見苦しい」

 母親を引き離した咲音は、「アンタはやっぱり、私の母親なんかじゃない。 アンタは赤の他人だよ。もう二度と、私たちの前に現れないで。もし次私たちの前に現れたら、今度こそ私はあなたを脅迫罪で警察に突き出してやるから」と母親に力強い言葉を残した。

「……分かったわ。もう二度と、あなたたちの前には現れないわ」

 母親は咲音に負けたのか、お金とその言葉を残して背を向けた。 

「ごめんね……。咲音……」

 そのまま歩き出す母親の姿を、咲音は切なそうに見つめていた。

「咲音……大丈夫か?」

 咲音の肩にそっと、手を乗せる。

「……これで良かったんだよね、先生?」

 その咲音の表情は、今にも泣きそうにも見える。

「ああ……あれで良かったんだよ、きっと」