確かに矢薙は、俺のことを好きだと言っていた。生徒からそんなことを言われて真面目に受け取る教師なんている訳がないと、俺は心のどこかで思っていた。
 俺もその一人だ。 本気で言われた所で、それを真に受けることはしない。
 
「私、先生のことがずっと好き。……ずっとずっと、先生のことだけが好きなの」

 矢薙の気持ちが、ずっと変わっていないことが驚きだ。これだけ美人になれば、いい男なんてわんさかいるだろうに。
 俺なんかじゃなくて、もっといい男を見つけてそいつと幸せになってほしい。 矢薙みたいな人には、俺なんかじゃなくて、もっといい人がいる。

「俺なんかじゃなくて、もっといい人を見つけろよ、矢薙。 俺みたいな男じゃなくて、もっと幸せにしてくれる人をさ」

 俺は矢薙のことをそう思って伝えたのに、矢薙は「私は先生じゃないと、ダメなの。……先生じゃきゃ、イヤなの」と俺の服の裾を掴んでくる。

「矢薙……?」

 久しぶりに見た矢薙の表情は、なんだかあの時とは違って不思議と、色っぽく見えてしまう。

「私はずっと、先生のことが好きなの。先生のことが大好きで、仕方ないの。 私には……先生じゃないと、ダメなんだよ」

「なんで、俺なんか……」

 俺はただの平凡な教師だ。 矢薙に好かれる理由なんてどこにもないのに。