「うん……美味い」

「本当? 美味しい?」

「うん、美味いよ」

 矢薙って料理が上手なんだな。出汁巻き卵もきんぴらごぼうも、全部美味い。
 味付けもそんなに濃くなくてちょうどいいし、優しい味付けだ。出汁巻き卵は特に、優しい味付けだ。

「優しい味付けだし、俺の好きな味だ」

「良かった。 私も食べよう。いただきます」

 矢薙はお弁当箱を開くと、美味しそうに食べ始める。

「うん、美味しいっ」

「料理上手なんだな、矢薙」

「お母さんに、教えてもらったから。 お母さん、料理教室の先生なの」

 へえ、そうなのか。料理教室の先生……。そりゃあ料理が美味い訳だな。

「料理が上手なのは、母親譲りなんだな」

「そうかも。 料理が上手なお嫁さんの方が、先生だって嬉しいでしょ?」

「……まあ、確かに」

 料理上手な女性は確かに嬉しい。美味しい料理が食べられるって、やっぱり幸せなことなのかもしれない。

「私、先生のお嫁さんになるためにね、料理一生懸命頑張ってるんだ」

「ええ?」

「先生に……美味しいって、食べてほしいから」

 矢薙のその気持ちは、とても嬉しいなと思う。好きな人に美味しいを食べてもらいたいっていうのは、女性からしたら当たり前なのかもしれない。  

「……ありがとう、矢薙」