「……矢薙、俺みたいな男と結婚なんて、なにを言ってるんだ。やめておけ」

 俺みたいな男と結婚しても、矢薙はきっと幸せにはなれない。
 俺は恋愛下手だし、臆病で、かっこ悪いし。

「どうしてですか?……私の幸せは、先生のそばにいることです。大好きな愛おしい先生と、ずっと一緒にいたいんです」

「なんでそんなに、俺のことを……」

 俺に好かれるほどの魅力があるなんて……全然、思えない。

「分かりません」

「はっ?」

 わ……分からない?

「でも、先生のことを私は好きになったんです。好きになったってことは、先生の知らない魅力があるってことです。 私は先生のすべてが、知りたいと思ったんです。好きな人のことを知りたいと思うのは、当然のことですよ」

「そ、そっか……」

 好きな人のすべてが知りたい……か。

「だから先生、まずは私の作ったお弁当を食べてみてください」

 矢薙がランチバッグから、弁当箱を取り出し、俺に手渡す。

「あ、ありがとう」

「愛情をたっぷり込めて作りました」

「……い、いただきます」

 弁当箱のフタを開けると、色とりどりのおかずたちが目に入る。
 出汁巻き卵、ほうれん草の胡麻和え、きんぴらごぼう、ウインナー、ミニトマトなど、たくさんのおかずが入っていて、美味しそうだ。