俺は矢薙の話に耳を傾け、頷いた。

「……そっか」

 矢薙もきっと、苦しかっただろうな……。

「むしろ、私は本当に感謝してて。ここまで育ててくれて、学校にも通わせてくれて、やりたいことをやらせてくれて。私の好きなように生きなさいって、背中を押してくれて……。本当に、感謝しかないな」

 矢薙の不安はきっと、取り除くことが出来たんだな。 卒業してから、少しだけどうしてるかと気になってはいたが。
 元気に、そして、前を向いて進んでくれてることを知ってホッとしているのも、また事実だ。

「いい両親に恵まれたんだな、矢薙」

「はい。……血の繋がりがなくても、家族ですから。私の家族は、両親だけです。 私の実の母と父は、両親も誰だか分からないと言ってました。だから私の両親は、血の繋がりがなくても家族なんです」

 矢薙は大人になったんだな……。俺の知らない矢薙が、そこにはいる。

「私は……絶対に幸せになりたいんです。 幸せになって、両親を安心させたいし、喜ばせてあげたいんです」

「矢薙なら、出来るさ」

 きっと両親も、矢薙のことを思ってくれてるはずだ。

「じゃあ、先生……」

「ん……?」 

 俺の服の袖をきゅっと引っ張る矢薙は、「先生、私と結婚してくれますか?」と言葉を続ける。