「先生、本当にありがとう」

「……強くなったんだな、矢薙」

 あの頃の矢薙じゃないなってことは、よく分かった。
 
「高校卒業してからね、私、ひとり暮らしを始めたの」

「そうなのか?」

「うん。 両親には散々迷惑かけちゃったし、甘えてばかりだったから、大人にならなくちゃって思って、高校卒業してすぐにひとり暮らしを始めたの」

 本当の両親ではないと打ち明けられた時の矢薙は、きっと辛かったと思う。 家族だと思ってた人が、実は血が繋がってなかったと分かったんだから、そんなのは当たり前だ。
 でも矢薙は、そんなことがあったというのに、休まずに学校に来ていた。 本人が一番辛いはずなのに、笑って過ごしていた。

 家族なのに、血の繋がりがないというその事実を簡単には受け入れらる訳はないし、逃げたくもなるだろうけど、矢薙はしっかりと両親と向き合うことを決めたのだと俺に言った。
 それでも、親であることには変わりがないからと。 誰の子なのかも分からない自分を大切に育ててくれた両親に、迷惑をかけたくないと言っていた矢薙の顔が、俺は今でも忘れられない。

「両親は、私がひとり暮らしをしたいと言った時、反対したけど。それはきっと私たちのせいだって、自分を責めてたけど、全然私は……そんなことなくて」