「矢薙はいい生徒だったと思うよ。真面目で」

「真面目に生きようと思えたのは、先生のおかげだよ」

 俺は矢薙に視線を向け「ん……?」と問いかける。

「先生が私に言ってくれた、あの言葉のおかげだよ。……先生が私に、矢薙には矢薙しか出来ないことが必ずあるって、そう言ってくれたおかげだよ」

 俺、そんなこと……言ったのか? 全然、覚えてない……。

「覚えてないと思うけど、私は先生のその一言で救われたんだ。 私が両親との関係に悩んでたあの時、先生にあの言葉を言われたから、私は今があるって思ってる」

 確かに……矢薙はあの時、両親との間に問題を抱えていた。 矢薙の両親と折り合いが合わず、矢薙は一人孤独を抱えていた時だ。
 矢薙の両親は本当の両親ではなかったと明かされた時、矢薙は俺に相談してきたことがあった。
 矢薙自身は、捨て子だということだった。 矢薙の両親が捨てられていた矢薙を拾って、自分たちの子供として育ててきたと、矢薙の十六歳の誕生日に打ち明けられたと話していた。

 名前も分からない矢薙を拾って育ててきたというその事実を受け入れられない矢薙は、俺に助けを求めてきた。
 【両親は本当の両親ではなかった。私は捨て子だった】と、泣きながら俺に話してきたあの時の矢薙と比べると、今は多分強くなったんだと思う。