「お、おう」
矢薙の隣に座ると、矢薙は水筒を取り出す。
「先生、お茶飲む?」
「いいのか?」
「うん」
お茶を汲んでくれる矢薙の横顔を見ながら、俺は妙に緊張している。
デートというデートは、最近したことがないせいか、デートというものに明らかに経験値が足りない。
「はい、先生。ほうじ茶」
「お、ありがとう」
このほうじ茶……なかなか美味い。
「このほうじ茶、美味いな」
「良かった」
矢薙のことを今まで生徒として見ていなかった俺は、矢薙とどんな風に接したらいいのか分からない。
どんなことを話したらいいんだろうか、一体……。十二歳も歳が離れた女の子と、何を話せばいいのかわ分からないぞ。
「ねえ、先生?」
「ん……?」
俺に視線を向ける矢薙は、俺を見つめながら「私って、どんな生徒だった?」と聞いてくる。
「ん?」
「私、先生のことずっと追いかけてたんだよ?知らないと思うけど。 ま、先生に好かれたくて、いい子を演じてたんだけどね。結構必死だったんだよ」
「そうなの……か?」
「そうだよ。 やっぱり好きな人には、よく見られたいもん」
年頃の女の子の考えてることは、分からないが……俺に好かれたくて必死だったと知って、意外だった。
「そっか」