第3章
紅雨
第1節
ーあなたー
1
「璃恋の彼氏、指名手配されたって出てるけど」
持っていたかごを床に投げ捨て、携帯を鞄に押し込みながらスーパーを出た。
後ろから店員さんに呼ばれた気がしたけど、今はそんなの関係ない。
家に向かってただ走る。
予想はしていたことだった。
わたしを攫った男は拓海くんのことを知っていたから、あの男が情報を流せばあっという間にわたし達の日常は崩れる。
何も言っていなかったから大丈夫だろうと思っていたけれど、やはり情報を流していたか。
携帯からうっすらと母親の声が聞こえる。
鬱陶しくて電源を切った。
ネットニュースとかにもなっているんだろうか。
ああ、見たくない。
ただわたし達は幸せに生きようとしているだけなのに、ふたりで支え合って生きていこうとしているだけなのに、それが上手くいかない。