「……わかった。貴女は解雇よ。そうするよう伝えておくわ」
「アッハッハッハ! 何を仰ってるんですか、お嬢様。私はご両親の意向に従い――」
「二人は私のことに対して、どうとも思っていないわ。いいから傘を返して。返してさえくれれば、解雇を撤回してあげてもいいし、今回のことにもついても目を瞑ってあげてもいい」


 このとき、目を離したのがいけなかった。相手を見ないと何を考えているのかが読めないから。私自身の言葉も相手を激昂させる失言。そして、それが大切なものの断片を失う原因になってしまった。


「はぁぁぁぁあああ⁉ 私はこんなにもお嬢様のことを思っているのに、まだ足りないんですかぁ⁉ 稽古が必要ですかぁ⁉」


 次に彼女を見たとき、傘は振り上げられていて、力任せに私の頭に叩き落としていた。
 研究ばかりにかまけて、雇う人間を適当にした両親。この人間はどこかおかしいと思っていたが、とんでもない化物が紛れ込んでいたものだ。