「あら、お嬢様。どうかなされました?」
「私の部屋から傘を持っていかれましたよね? できればお返し願いたいのですが」


 女はわざとらしく「あぁー」と笑いながら、傘を取り出した。
 紛れもない奏からもらった思い出の黄色傘。


「ゴミとして処分しようと思っていたんですけど、こんなのが必要なんですか?」


 私の中ではこんなのという物ではない。失礼な態度と言動に、私の敬語が崩れる。


「……貴女にはそう見えるかもしれないけど、私にとっては大切なものだから取っておきたいの」
「ふぅん……」


 揺れているネームプレートを見やる女は、綴られている異国文字の名前が読めないのか首を傾げていた。雑に扱われ劣化していた紐が悲鳴を上げる。