思った以上の上機嫌。そう長くはない時間で、お稽古とは名ばかりのものが終わりを告げる。付き合う身にもなって欲しいものだが、言わない約束だ。
 こんなことをされているのにもかかわらず、メイドの誰もが追求しないのは、誰もが私を見ていないからだろう。そもそもメイドの数も少ない、送られる回数が少なくなってきている研究所でも、痣があろうが「稽古で」といっておけば終わるのだから。
 しばらくして服の埃を払い、立ち上がる。身体への影響はほとんどない。これも総一朗から教わった武術の経験が生きているからか。
 そろそろ部屋に戻ろう。行きと変わらぬ足取りで大広間を後にすると、引っ越し続きで未だに慣れない自室へと戻った。


 部屋に入ってから、間もなく強い違和感を覚えることになる。
 この部屋に慣れていないのは確かだが、あまりに大きな違和感。忙しなく辺りを見渡し、部屋の中でその感覚の出所を辿る。