「お嬢様、そろそろお稽古の時間です」
「……ええ」


 国が違えば執事も違う。代わり代わるメイドや執事の名を覚えても、すぐにいなくなる。
 彼の国にいる総一朗だけがずっと、恐怖しているのにもかかわらず、あの屋敷で私の執事を努めていた。
 しかし、ここにいる体格のいい女性は違う。私にいいイメージを持つものはほとんどいないとわかっているが、特に強烈だ。
 それなりに広い家の中、彼女の後ろをついて行き辿り着いたのはいわゆる道場のような大広間。ここで稽古という名の蹂躙が始まる。


「っ……かはっ!」


 体格差は歴然。少しは伸びたといえども、大人の女性には及ばない。私は固い壁へと叩きつけられることになる。


「はぁ……お嬢様、その程度ですか?」


 ニヤニヤと笑う顔。
 恐怖には恐怖をと言ったところか、私から感じた恐怖で自分が許せないのだろう。だからこそ、痛めつける。私がやれることは彼女のプライドを傷つけないように、痛めつけられているように見せかけること。
 そう、これは彼女の蹂躙ではなく、私が蹂躙しているのだ。