「ふぇ……ふぅぅ! わぁぁい!」


 やっぱり嘘泣き。嘘泣きだったとしても続ければ涙が出てしまうのか。それは彼女の心が綺麗だったから? ともかく言えるのは、上手な嘘泣きにしてやられてしまったということ。
 満面の笑みと強引に手渡された傘を私は受け取ると、女の子はやがて帰り道を辿っていく。


「それじゃあ、またね! ばいばーい!」
「……」


 手を振った後に長靴で水たまりを弾けさせる。まるで嵐のような子の姿を、私は傘を抱いて見送った。
 あの子は私の眼を見ても驚いただけで、恐怖も何も抱いていなかった。誰もが私に対して抱いていたはずのものを、彼女からは感じることができなかった。これが違和感の正体。
 胸の内がどことなくあたたかい。名前のわからないこれが、私の追い求めていたモノ?
 その瞬間、私のすぐ側で風が吹き荒れる。そして、轟音と共に電車が通過した。