アリスが泣き疲れて寝たことを確認すると、私は静かに部屋を後にした。
 今晩はイルゼの好意で王宮の離れに宿泊をさせてもらうことになったのだ。

 そうして私は約束の場所であるイルゼの部屋の扉をノックする。

「いらっしゃい」

 笑顔で私を迎えたイルゼについてバルコニーに向かうと、そこにはワインが置かれていた。

「ご一緒していただけるかな?」
「その話し方、やめろ」

 私がそう言うと一気に表情を変えてため息を一つ吐いた。
 そうして私のグラスにワインを注ぐと、彼の誘いに乗ってグラスを合わせた。

「ミレーヌ様の娘がどんなご令嬢かと思えば、なんとも平凡な子だ」

 彼の言葉にイラっとする自分を抑えながら、何も言わずにグラスのワインを一口飲む。

「私に嫉妬していたのだろう?」

 得意げな顔をしてイルゼは私に問いかけてくる。
 嫉妬だと?
 したに決まっているだろう。
 アリスに軽々しく触れて、手とはいえ唇をつけておいて、何様のつもりだ。
 明らかに私を挑発していたあの瞬間、血が沸き立つような感覚がした。