少し身なりがいい人が恐らく子爵で、船長があの赤髪で顔に傷がある男の人のことだろう。
 子爵の横に護衛の人間がいて、マスカードはアクセサリーのほかによく見ると腰にいくつか剣を忍ばせている。

 私たちは息を殺して彼らの会話を聞いてじっとその時を待った。

「それで? イルゼの笛は?」
「私の部下が向かっている。もうすぐ戻ってくるだろう」
「そうか」

 マスカードは葉巻を取り出して火をつけると、ゆっくりとそれをふかしながら子爵にその煙をかける。
 煙を受けた子爵は嫌がるように顔を逸らすが、その様子をマスカードは鼻で笑った。

「笛を手に入れたら本当に金貨500枚くれるのだろうな?」
「ああ、契約書にも書いたとおりだ」

 イルゼさんのほうへ私は目を向けると、じっとその二人の声を聞き逃さないようにしている。

 そして、その時は訪れた。

「行くぞ」
「え!?」

 イルゼさんは隠れていた建物の上から飛び降りると、子爵とマスカードのもとへと向かっていく。

「なっ! 誰だ」
「ヒュード子爵、残念だよ。あなたはこの国で珍しい庶民出身の貴族で民衆からも支持が厚かったというのに」