跪いて私の手にちゅっと挨拶をすると、殿下がその手を振り払って私の前に出る。

「悪趣味だな、イルゼ」
「……え?」

 今、殿下はイルゼっていった?
 クリーム色の長い髪に翡翠の瞳、ポワロくんと同じ特徴だけどそこにはどこからどう見ても殿下と同じ身長くらいの成人男性がいる。

「あなたが、イルゼさん……?」
「ああ。悪いな、お前を試した。あの悪夢は私の魔法だ。常人ではあの悪夢を振り切ることもできないだろう。だが、お前は強い意思で振り払った。その心の強さ、認めよう」

 悪夢の正体を聞いた私は納得する。
 イルゼさんは笛についていたチェーンを使ってネックレスにすると、長い髪をさらりと手で払って扉を開ける。

「イルゼさん?」
「行くぞ。あいつらには私の死をわざと噂として流していた」
「やはり、わざとだったのだな」

 特に驚いた様子もない殿下を見ると、彼はもうそのことに気づいていたらしい。
 もしかして、私だけ何もわかってなかった……?

「数を減らしてやつらのねぐらをごと一気に潰す想定だったが、勘がいいらしい。頭はやはり出てこなかったかったか」
「くどくどと長いな。何がいいたい」