子どもが駆けてきた方向に目をやると、そこには野盗らしき男が一人こちらにナイフを向けている。

「さあ、早く渡しな、痛い目みたくなかったらな!」

 私の中で怯えて震えている子どもが男に叫ぶ。

「渡せません! これはイルゼ師匠の形見なんです」
「え?」

 今この子は「イルゼ師匠」と言っただろうか。
 もしかしてそのイルゼは私たちの探しているイルゼさん……?

「そんなことは知るか! そいつがあれば俺たちは爵位を得られるんだよ」

 私は男の子の肩をぎゅっと抱きしめ、自分の後ろにその子を隠すようにして守る。
 今ここに来た私にはどういう状況かあまり理解できていないのが事実だけどこんな子どもに手をあげようとしているなんてどうかしている。

「嬢ちゃん、そいつをかばうのか?」
「あなたがこの子の大切なものを奪おうとしているように見えます。合っていますか?」
「あ?」

 男は怪訝そうな顔をした後、一歩前に出て睨みつけてくる。

「あんたも首ツッコんで俺の邪魔するってなら、容赦しねえぞ」

 そう言って男は私にナイフを向けて攻撃の意思を示してくる。