……あっ。
 先輩……。
 今は移動教室のときで、友達は話に夢中になってる。
「あっ!」
 え、空耳?
 私は振り返らずに息を飲む。
 何で、先輩の声が……?
 でも、どんどん大きくなってくる足音。
 く、来る……!
 私は緊張でかたまった。
「ね、ねえ。あと少しでエイプリルフールだね」
「え?」
 急に、季節の話?
「あ、えっと、僕、その日は言われたこと全部、逆の意味だというように受け取るよ。逆に、僕も逆の意味の言葉言うよ。僕、嘘ついても良い日とか好きな感じなんだ」
 へーえ。
 初めて知った先輩の一面。
 知ってる事が一つ増えて、くすぐったい感じがした。
「……そ、そうなんですね」
 曖昧な返事しか返せない。
「あ、えっと、ごめんね。聞いてほしかっただけで。引き止めてごめん」
 怒っているか困っているかと思ったらしく、謝ってきた先輩。
「あ、い、いえ……」
「えっと、最後に名前聞いて良い?」
 名前……?
「えっと、私2ーSの日野桃姫です。よろしくです……」
 あ、よろしくですって変だったな……。
 失敗した、自己紹介。
 第一印象が肝心だって言うのに……って、第一印象はきっと、絡まれかけてた中学生って思ってるはず。
「そっか、日野さん!バイバイっ」
 え、ひ、引かれてない……?
 そのまま行っちゃった先輩。
 ま、まあエイプリルフールに告白するのかは保留かな。
「桃姫、行こう」
 よほど話に白熱してたらしい友達が言ってくる。
 私はクールキャラで通してるから、ときめいたなんて、秘密にしとこう。
 本当は私ちゃんと人を好きになるし、ときめくけど。
 そんなこと言ったら引かれるよね……。
 足を急がせて、私は教室へ急いだ。