私は家のカレンダーをぼうっと携帯を持って見た。
 三月二十八日、木曜日。
 それは、今日の日付。
 私、日野桃姫、中2。
 勉強は少しできて、運動は好きだけどできないという悲しい事実を持つ私だった。
 けど、一匹狼ではない。
 クラスでは少し浮き気味の私だけど、少ないけど友達を持っていた。
 そしてもちろん、初恋もある。
 私は4月のカレンダーを見た。
「エイプリルフール、か……」
 エイプリルフール。嘘をついても良い日らしい。
 別に私は興味ない。……と言いたいけれども。
 私の好きな人に、「嫌い」と言って、「今日はエイプリルフールですから、嘘つきました。すみません」って言えば、わかってくれるんじゃないかな?と期待していた。
 ーピコンッ
 あ、連絡来た。
 友達の名前が表示されている。
 私はその連絡を読む。
〈青花先輩、カッコ良かったね、今日も!〉
 ー!!
 あ、あおばなせんぱい……。
 友達は、青花先輩がかっこいいと言っている。
 でも恋愛感情はこれっぽっちもないらしい。
 青花勇気先輩は、運動以外ほとんど完璧。
 そして、私は、その勇気先輩が好き。
 ゆっ、勇気先輩なんて、馴れ馴れしすぎるけどっ。
 心の中でなら、いいでしょ……。
〈うん〉
 そう友達に送って、携帯を閉じる。
 私は、勇気先輩を好きになったときのことを思い出した。



 中1の秋。
 私は先生に頼まれ、資料を教室に持っていくことになった。
 重い資料を一歩一歩確実に持ち運んで行く。
 あ、と、ちょっ、と……!
 教室が見えたとき、男子組が私の横を通った。
 うう、もう限界……!
 でも、必ず落とさない……っ。
 けれど、ふらふらとしてしまう。
『あ……っ!』
 気づくと、さっきの男子組の一人が私を睨みつけていた。
『お前、俺に何ぶつかってきてやがる!』
 こんな人いたの……?どうしよう、やっちゃった。
 資料も全てぶちまけていて、私はそれを拾う。
『すみません……っ』
 何回も謝りながら拾うと、彼のバカにしたような笑いが聞こえた。
『はっ、ダッサ。下向いて謝るとか、俺のこと怖くて見れないんじゃね』
 ち、ちが……。
『……えっ、と……』
 何とか、言葉を探す。
『すみません』
 結局言葉が出てこなくて、また謝る。
『は?良い加減しつけーんだよ!』
 拳を振り上げるのが影の動きでわかる。
 な、殴られる……!
 目を閉じる。
 けれど、それが私に当たることはなかった。
 恐る恐る目を開けた。
 そこには、学校の有名人、青花先輩がいた。
『やめた方がいいよ。下級生に手を出すなんて終わってる。資料持ってるだろ?ぶちまけちゃったのにそれはひどいよ』
 先輩……?
 ドキッと胸が高鳴る。
『重いやつ持っててふらついたんだろ。最低だぞ、お前ら。謝れよ』
『せ、先輩、謝らなくて大丈夫です!』
 資料を集め終わってそう言う。
『す、すまん……』
 彼は気まずそうに逃げてった。
『大丈夫?立てる?』
『は、はい』
『じゃ』
 笑顔でそう言い、行った先輩に、まだ胸の高鳴りが止まらなかった。



 先輩はあんなの、忘れてるだろうけど。
 私はまだ忘れられない。
 あの、先輩の姿を。