ーザー、ザーザー

 雨の音が、放課後の空き教室に響く。
 窓際の席に座っている男子は、窓の外を眺めている。
 ミステリアスな空気をまとう彼の瞳が、どこか気だるげに見えた。
 どうしたんだろうか。
 私は、空き教室でドリルなどを持ってきて、勉強している。
 だけど彼は、何も持っていないから何かするために残っているわけではなさそうだ。
 ただ、窓の外を眺めているだけだ。
 まだ家に帰っていないのも気になる。
 傘忘れたのかな?
 でも……傘を忘れるような人には見えない……。
 そもそも……こんなひと、見たことない。
「……何見てんの?」
「わああっ⁉︎」
 ば、ばれてた⁉︎
 気づいてたの⁉︎
 ばれた恥ずかしさで、筆箱を落としてしまいそうになった。
 慌ててキャッチすると、騒がしいと思ったのか、彼の瞳がこっちに向いた。
 うわあああ……。
 初めて、彼の顔をしっかり見た。
 イケメン……。
 イケメンという言葉はこの人のために作られたと認めざるを得ないような顔の整いに驚愕する。
「……何で、そんなに驚いてんの?」
「え?」
 み、見てたのばれたから……なんて言えない!
 慌てて言い訳をまくしたてる。
「えっと、急に話しかけられたから……!」
「ふーん」
 彼はそっけなく言ってまた窓の外を眺め始めた。
 なぜか、目が離せない。
 なぜか妙に鼓動が速い気がする。
 なんでだろう……?
「……傘」
「はい?」
 傘……?
「持ってる?今」
「……?はい」
 急に……どうしたのかな?
「何個ある?」
 やっぱり、傘忘れたのかな?
「一個ですけど……」
「……」
 何も言ってこない……。
 借りたいたいんじゃないのかな?
 窓の外を眺めているけど、さっきよりは渋い表情だ。
 どこか遠慮気味……もしかして!
 一個なら借りるのやめとこうって思ってそう!
 でもそしたら彼が永遠にここから帰れなくなってしまう。
 え、永遠ではないけど、今日は帰れないかもしれない。
「……傘貸しますよ!」
「……⁉︎」
 彼の瞳が見開かれる。
「いや……でも」
遠慮しているのか、うつむいている。
「大丈夫です!近いので!」
 本当はちょっぴり遠いけど、遠慮してほしくないから言った。
「じゃあさ、しょうがないから……」
「はい」
 彼は立ち上がる。
 そして、こっちに歩いてきた。
 綺麗な湖を映したような瞳がきらりと輝いた。
「相合傘しよう?」
「え⁉︎」
 相合傘⁉︎
 彼は優しく微笑む。
 ……窓の外では、雨がザーザーと降っていた。