『二人とも、優しいんだ。それに……ほんとは臆病なんだけど、何事にもまっすぐで強くてキラキラと光輝いている』

それに続くのは、はるくんが中学に入学してから死ぬまでの思い出話だ。
私たちと一緒にいた時の記憶を楽しそうに書き綴っている。
あんなことがあった。こんなこともあったな、と。

私は瞳を閉じて記憶を浸る。
すると不思議なことに、すぐ隣にはるくんがいるような気がしてくるのだ。
ほんのすぐ側。
そこで彼が私に話しかける。
その顔も、声も、今は鮮明に思い出せる。
だけど、いつか、記憶が薄れ、その当時の出来事を思い出せなくなる時が来るのだろうか。

『しずちゃん、ねねちゃん、これからも笑えよ、泣くなよ。それが俺の願いだから。大切でかけがえのない大好きな二人が笑ってくれるのが、何よりも嬉しいからさ』

私は涙を堪えて、ゆっくりと目を滑らせる。
言葉に刻まれたはるくんの想いを一滴も零してしまわないように。
いつか――追いつけると信じて。

『てーか、いつの間にか、しずちゃんとねねちゃんに宛てたような内容になってしまってごめんな。書きたいことはたくさんあるけど、お母さんが呼んでいるからここまでにするなー。秋斗兄貴、春陽、またな。秋斗兄貴と春陽の幸せを願っているから。いつか絶対に会おうな』

その文章の後、手紙を締めくくるように『桐島陽琉』と名前が書かれていた。

桐島陽琉。

私は絶対に、この名前を忘れない。
たとえ、もう永遠に逢うことができなくても……忘れない。
もう二度と、はるくんのことを忘れない。
私はこれからもはるくんのことを忘れないまま、秋斗くんと春陽くんとねねちゃんたちと、この世界で生きていこう。


生きていくから……。


「……」

ベッドに落ちた私とねねちゃんのものではない涙に、堪えていた私たちの涙はあっけなく溢れた。

「うっ……ううううぅぅ……はるくん……」
「はるくん……わたしも大好きだったよ……」

秋の陽射しが落とす静かな病室で、私とねねちゃんは静かに静かに泣いていた。

さようならさようなら、ありがとう。
大好きだった人。
私の初恋の人。

はるくんのぬくもり、忘れないから。
もっともっと強くなるから。
どうか、これからも私たちを見守っていて。

はるくんからもらった言葉やその存在は、なにものにも変えられない私たちの光だから。
はるくんがいる過去は、もう消せない記憶(いま)だから。

いつだって。どんな時だって。
この手はあなたに繋がっているって――信じてる。