私ははるくんの手紙を封筒から取り出して開く。
五枚の便箋に綴られるのは懐かしさすら覚える筆跡……はるくんの字だ。
私は一度、深呼吸をして、ゆっくりと目を通す。

『お母さんが教えてくれた俺の兄貴と双子の弟へ』

手紙の書き出しはこうだった。

『初めまして、つーか、驚いた? それとも、もうお父さんか、お母さんに聞いた? もし、何も知らなかったら、驚かせてごめんな。俺の想いを伝えたくて、今この手紙を書いてる。きっと、今は会ったりすることはできないって、お母さんから聞いたので。だから、せめて未来に届くこの手紙だけでも、二人に届けたい。俺の想いが伝わってくれたら嬉しい』

秋斗くんは何も言わなかった。
ただ、はるくんの想いを、一言一句噛みしめている。

胸に沁みる静寂の中、私はそっと読み進めていく。

『伝えたいことや聞きたいことが山ほどあるけど、書き連ねたら封筒がぱんぱんに膨らんでしまったんだよなー。郵便局に出す前に弾けそうだって、お母さんに言われたので、大切なことだけ伝えようと思ってる』

手紙の文章を読み進める度に、私は少しずつ鼓動が早くなる。

『俺は今、陸上に夢中になってる。走るのって、すげえ気持ちいいんだー。秋斗兄貴と春陽は運動に興味ないかもしれないけど、きっと俺の面影はあるからさ。絶対に何かに夢中になってる。どんなことに夢中になっているのか、気になるなー』

はるくんはきっと、秋斗くんが子供の頃から一躍注目を集めるほどのヴァイオリンの神童だったと知ったら、すごく驚くと思うな。
それに、春陽くんがはるくんと同じ陸上に興味を持っていると知ったら、すごく感激すると思う。

『直接、会えないのは残念だけど、いつかは絶対に会いたい。心から会いたいって願ってる。この手紙を読んでいる秋斗兄貴と春陽も、俺と同じ気持ちだったらいいなー。俺と秋斗兄貴と春陽は『共依存病』で繋がっているから、想いは同じだと信じたい』

どこよりも近く、どこよりも遠い場所にはるくんがいる。
本当はもう二度と交わることはなかった、一つの事故が引き裂いた兄弟を、今こうして……この手紙が繋いでくれた。

『あのさ、秋斗兄貴と春陽には好きな人はいますか? 俺はいるんだ。大切でかけがえのない――大好きな女の子たち。しずちゃんとねねちゃん』

どきりとした。心の中を見透かされたような気がして。
私は改めて、手紙に目を向ける。
はるくんから届いた私たちへのメッセージを。