救急車で運ばれた春陽くんはそのまま入院することになった。
場所は、秋斗くんと春陽くんが生まれた時からずっと、『共依存病』の治療のために入退院を繰り返している総合病院。
でも、二人の病室は、家族以外は面会謝絶だという。
結局、私はその日、春陽くんに面会することは叶わず、家に帰宅した。

……春陽くん、私、どうしたらいいの……。

夕食を終え、部屋に戻ってきても、思考がまるで追いつかない。
春陽くんが倒れたこと、秋斗くんに入れ替わった時間がいつもより早かったこと、どれもあまりに突然すぎて現実感がなかった。

怖い……。
このまま、春陽くんの時間が減ったら……。

時間が凍りついたと錯覚するくらい、私にはこの時が長く感じた。
どれくらい、時間が経っただろうか。携帯の振動が電話の着信を教えてくれる。
画面に映るのは『秋斗くん』。

『……雫、ごめんな。秋斗になったら連絡するな……』

頭が混乱する中、先程の春陽くんの言葉を思い出す。
動転する気持ちを落ち着かせ……私は電話に出た。

「……もしもし」
「篠宮さん」

一拍あってから、秋斗くんの声がした。

「あ、秋斗くん」
「先程は突然、倒れてしまって申し訳ありません」
「ううん、気にしないで。春陽くんは大丈夫?」

電話の向こう側で、躊躇うように息を吸う気配があった。

「はい。……ただ、僕たちの担当医師の話では、僕たちの入れ替わる周期が早まっているそうです。今回のように、突然入れ替わりが生じる可能性が高い。そして――」

携帯を持っている手が震える。じわりと汗が滲んだ。
動揺する思考の中、私は静かに秋斗くんの言葉の続きを待った。

「僕が春陽として生きられる時間は、あまり残されていないそうです……」
「そんな……!」

私は弾かれたように声を上げていた。
思わぬ事実に、動悸が激しくなる。

「篠宮さん。僕は知っているんです。春陽を救う方法を。……そのために必要な代償を」

秋斗くんの悲痛な想いが声に乗って、私の胸に届く。

「父さんと僕達の担当医師の先生が話しているのを偶然、聞いたんです。僕が死ぬことで、春陽の時間を取り戻すことができることを」
「……っ」

頭の中が真っ白になる。
だんだんと意味を理解していくに連れて、秋斗くんがこれから行おうとしていることが分かってくる。

私はどうすればいいのだろう。
なにを望めばいいのだろう。

正解が分からないのに、ただ、春陽くんを救いたい気持ちと、秋斗くんに死んでほしくない気持ちだけは本当で、その狭間で泣いてしまいたくなった。