「雫、何かあったのか?」

ふたりきりの神社の裏手。
私の表情に影が落ちていることに気づいたのだろう。
私を覗き込むようにして、春陽くんが見つめてくる。

「何でもないよ。ただ、はるくんのことを思い出していただけだから……」

温かな眼差し。この瞳に映る春陽くんの顔がはるくんのように感じられて。
声が仕草があまりにも似すぎていて、私は涙がこみ上げてきそうになった。

「……ごめんね。はるくんはもういないんだと分かっているのに、認めないといけないのに……。それでも、私……」
「無理するなよ!」
「あ……」

私の震える声を掻き消すように、春陽くんはその両腕で私を抱きしめた。

「俺はさ、雫の一生懸命を知っている。雫の頑張りを知っている」
「……っ」

春陽くんと触れている部分が燃えるように熱くなる。
熱いものが、私の身体の芯から突き上げてきた。

「雫はいつもまっすぐで、何事にも一生懸命で。俺はそんな雫の喜ぶ姿が見たいと、何度も何度も思っていた。誕生日プレゼントのサプライズをした時も、コンクールの時も、雫を喜ばせたかった」

不意に、私の背中を抱く手に力がこもった。

春陽くんの温かい体温を感じる。
春の日だまりのような匂いがする。
心臓の鼓動が聞こえる。
それらは春陽くんが確かに生きているという証で、気が遠くなりそうなほど愛しく感じた。

「でも、雫の心にはいつも陽琉がいて、陽琉の魂の半身である俺は、陽琉の代わりにしかなれないんじゃないかと思ってた」

春陽くんの声が悲哀を帯びていく。
その声音はあまりにも儚げで、悲鳴を上げるように私の胸が疼いた。

「それでも良かったんだ。雫が笑ってくれるなら。雫が幸せになってくれるなら、俺は陽琉の代わりでも良かった。だってさ」

続けて、春陽くんが口にした言葉を私は一生忘れない。

「好きなんだ、雫のこと。大好きなんだ」

言葉の意味を理解した瞬間――。
切なさが大波のように押し寄せてきて、私は涙を堪えることができなくなった。

「うああああん!」

自分のものとは思えないような声が、喉からほとばしり出る。
私は春陽くんにすがりつくように、声を張り上げて泣いた。

「うっ……ううううぅぅ……、あ……ありがとう……ありがとう……」

春陽くんに伝えたいことはたくさんあるのに、何か言おうとしても、嗚咽が邪魔をしてうまく言葉にならない。