「自分の人生の幸せを決めるのは誰でもなく、春陽くんたち自身だもん」
「はるくんとあきくんなら、きっとできるよー」
「ありがとうな、雫、ねねちゃん」

私とねねちゃんと春陽くんは温かい想いを共有する。
今夜生まれたこの愛おしい記憶を抱きしめて、これからも一緒に生きていくために。

『しずちゃん、いくらでも悩めばいい。ただその後、しっかり前さえ向ければ』

いつだったか。そう言っていたはるくんの強い声が耳に残ってる。

どんな時も笑顔で、明るくて、前向きで。
はるくんの存在自体が、まるで燦々と輝く太陽みたいで。
はるくんがそこにいてくれるだけで、私たちの世界はいつも明るかった。

私もねねちゃんも、はるくんがいない未来なんて永遠に来ないと思ってた。
ずっと、はるくんの言葉がもたらす優しい熱の中にだけ、身体も心も沈ませていたかった。
でも……現実は残酷で。

もしも、秋斗くんと春陽くんがいて、そしてはるくんのいる世界を取り戻せるのなら、それ以外に望むことなんて、何ひとつないような気がした。
その世界にたどり着く可能性が、ほんのわずかでもあるなら、私はきっと死に物狂いでしがみついていただろう。

でも、分かってる。

私の心の中を、冷たい隙間風のようなものが通り抜ける。

はるくんはこの世界にいない。
あの悲惨な運命は変えられない。

それを悟った瞬間、私は怖くなった。恐怖が全身を駆け回る。

怖い。怖い。
行かないで、はるくん。
春陽くんを助けて。
秋斗くんと春陽くんと一緒に生きて。

本当に遠い場所は過去だ。
既に彼方に過ぎ去り、もう二度と戻ることができない。
どれほど、手を伸ばしても届くことはない。

お願い。お願い。
はるくん、はるくん、返事して。

大事なものを置いて、前を向くのは――前に進むのは本当に痛みを伴う。
その事実が現実感を伴って、私の心に重くのしかかってくる。

「あ……お母さんから」

その時、ねねちゃんの携帯が振動する。
ねねちゃんのお母さんから電話が来たみたいだ。

「はるくん、しずちゃん、ごめんね。そろそろ、家に帰らないといけないみたいー」
「おう、今日はありがとうな」
「……うん。ねねちゃん、またね」

ねねちゃんは「またね」と手を振ると、行き交う人々の間を縫うようにして、神社の鳥居の方へ進んでいく。
橙色の提灯の光が優しく、夏の夜空を満たしていた。