「もうすぐ、花火が始まるけど、どうしよっか?」
「もっと見晴らしが良いところに移動するか?」
「ううん、ここがいい」

私と春陽くんの問いに、ねねちゃんは膝を抱えたまま、首を横に振る。

「あの時と同じ特等席で花火を見たいから」

ねねちゃんは宙を見つめたまま、迷うような沈黙を落とす。
二年前、はるくんとともに駆け抜けた夏祭りも、この神社の裏手から、私たちは花火を見上げていた。

――――ドン……!

懐かしさがこみ上げてきた時、大きな音をたてて、夜空に大輪の花が咲いた。

「あ……」

飛び込んできたのは、私の視界を覆うような光彩の雨だった。
赤、緑、黄色、紫。
様々な色を纏った瞬間の火花。
わあっ、と周りで歓声が上がる。
色とりどりの大輪の光が、次から次へと夏の夜空に高く放たれていく。
春陽くんの横顔が色とりどりの光に照らされ、闇に浮かび上がる。

「俺、打ち上げ花火が好きなんだー。小さい頃に、父さんと一緒に見に行った花火大会がすげえ印象に残っていてさ」

降り注ぐ光のスコールにさらされて、春陽くんは陶然と空を見上げていた。
浮かべている笑顔は、あの時のはるくんの笑顔そのもので。
だからこそ、私は……無性にはるくんに会いたくなった。

『しずちゃん、ねねちゃん。俺、打ち上げ花火が好きなんだー。小さい頃に、お母さんと一緒に見に行った花火大会がすげえ印象に残っていてさ』

私とねねちゃんの目をまっすぐ見つめてそう言ったはるくんの姿が、今でも鮮明に浮かぶ。
好きになった理由まで同じなんて、春陽くんとはるくんは本当に魂レベルで繋がっている。
最後に打ち上げられた大輪の花火が、きらきら光りながら闇の中を流れ落ちていった。

「すげえ綺麗だったなー」
「ねねっ、はるくん、しずちゃん。これってやっぱり希望の光!」

春陽くんとねねちゃんは白煙に覆われた空を眺めて、花火の余韻に浸っている。

「うん、希望の光だね」

一度きりの人生、今しか出来ない青春。
みんなとのんびりとした時間をともに過ごす。その心地よさが私には愛おしかった。

これからも四季折々、廻る景色をみんなとともに見たい。
春夏秋冬をともに過ごすことができたならば、私にとってはそれだけで僥倖だった。