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中間テストかぁ。
そんな悍ましい言葉を聞くようになったのは
制服も夏服に変わって蒸し暑くなってきた頃。
蝉の鳴く声が耳をつんざく季節が今年もやってきた。
「…ちゅ、中間テスト…?なにそれ…美味しいのかい?」
放課後、芽依ちゃんが推しのアイドルのクリアファイルに話しかけている。
夏の暑さはこうも人をおかしくする。
「現実を見ておばあちゃん。テストは一週間後だよ」
私が裏声で返事をするとぴえぇん!と机に突っ伏す芽依ちゃん。
「私見た目はガリ勉陰キャだけど実際は勉強のべの字もできない阿呆なのぉ!」
すまんな芽依ちゃん。
わざわざ惨めな自己紹介などせずともそんなこととうに知っている。
「今回数学難しいよね」
私が淡々と言うとギロリと睨みつけてくる。
「わかってるわよ。わざわざ言うんじゃないよ。顎外すわよ」
「すまねぇ」
「はぁ…数学嫌い…猫がお風呂に抱く嫌悪感と同じくらい嫌い」
わかりづらいな。
「拝啓。
初夏の侯…父上母上はいかがお過ごしですか?
私は中間テストに殺されかけています。
来世はどうか、関数も方程式もサインコサインタンジェントも…数学の概念が存在しない世に爆誕できますように。
七夕の短冊に綴って、そこらへんの草に吊るしておきます。
敬具」
芽依ちゃんが両手を結んで綺麗な声でそう言う。
芽依ちゃんはしっかり者だけど定期的に壊れる。