「佐倉?」

「なっなんでもない」

「ならこっち見て」


…へ?
今、なんと?


「こっち見てよ佐倉」

なっ

「む、無理だよ!」

赤くなった顔を俯いて隠しながら言う。


視界に入っているのは秋斗くんの腕と足。
少し目線を上げれば鎖骨が見える。

「なんでもないんだろ?なんで下見てるの?」

なっなっ



彼が特に何も考えず、俯いている私をただ不思議に思って言っていることは分かっている。

なんせ無自覚だから。


でもこの状況ではただいじめられているようにしか思えませんよ!?

どっからどう見てもあなたが好きだと主張しているこの赤くなった顔面を
当事者のあなたに向けろと言うのですか!?



「い、今はダメなの!」

「へー。なんでダメなの?」


っ!?

秋斗くんの声がさっきまでのクリアな音ではなくなった。

少し意地の悪さを含んだような、甘い声になる。


「ねぇ佐倉…なんでそんなに耳が赤いの?」

なっ