「佐倉、腕貸して」

「は、はい」

キャスター付きの椅子に座ってゴロゴロと寄ってくる。
その仕草にさえドキドキしながら腕を出す。


「一瞬痛いかも」

消毒液のようなものをガーゼにつける

「びゃっ!」

思ったより染みたーーっ


手早く血を拭き取って絆創膏を貼ってくれる。

「終わり。よくできました」



ぽんっと私の頭の上に秋斗くんの手が乗った。



どくんと波打つ心臓。

…お願いだから
本当にこういうことしないで。


真っ赤になっていく顔。

秋斗くんに聞こえるんじゃないかってくらい大きく鳴り響く鼓動。


苦しい。

胸がうるさくて、締め付けられて
回避の仕方が分からなくて

それでいて、甘くって。



「ぅぅ…」

「…佐倉?顔赤いよ?」

秋斗くんのちょっと低い声がかかる。


いつもより近い距離で、息遣いがわかる距離で

秋斗くんの低い声と、嗅ぎ慣れない爽やかな匂いが私を混乱させる。



無自覚でやってるんだ。

この人はそういう人。

恋愛に興味がなくて、私のことをなんとも思っていないからこそ
こんなことができてしまう。


無自覚で、甘くて、ひたすらに

罪な人。