おっと、そろそろ行かねば。

「じゃあそろそ…ろ」

顔を上げると同時に声が小さくなる。


え。


隣の席にいると思っていた秋斗くんはもっと近くにいて、私の机に手をついていた。

机に体をよりかからせて、その綺麗な目で私の顔を覗き込む。

何故かすごい近距離。
焦ることすら忘れて硬直する。


何を考えているのか全くわからない、光の無い瞳。

少しだけ上がった口角とは裏腹になんだか冷たい雰囲気がある。



「あ、あきと…くん?」

振り絞って出た私の声はいつもよりワントーン高かった。

ちっ近くないですか…?



「佐倉はもっとディフェンスを強くするべきだよ」

…へ?

な、なに?えと…バスケの話?


「危機感持たなきゃ」

秋斗くんの心地のいい低音ボイスが撫でるように、そして拘束するように脳内に響く。



「あんまり無防備だと俺の計算が狂うんだけどなぁ」

……


「あ…きとく…」

「ふふ、マヌケ面」


魂が抜けたように動くことを忘れていた私に
いつも通りの優しい笑顔を向ける。


「う、え?」

「ほら行くよー体育委員が遅れると怒られるよー」




「あ、ま、待って!」


何事もなかったかのように体育館シューズを担いで
廊下に向かう秋斗くん。

その背中を追いかけながら、無駄に早い瞬きを繰り返す。



え、ええ!

なに!?
なんなの!?

どういうこと!?