俺がそんな厄介な悩みを抱えてることはつゆ知らず、美桜は簡単に笑いかけてくる。



はっきり言って美桜は可愛い。
かなり可愛い。


セミロングの甘い香りがする艶のいい髪も、透き通るような茶色の瞳も、雪みたいな白い肌も、桜みたいな小さな唇も

佐倉美桜という名前があまりにも似合う、春みたいに穏やかな笑顔も

崖っぷちでもしつこく根を張る桜の木のように、時に力強く光る目も。


そこら辺の写真部とっ捕まえてポートレート撮ってとでも言いたいくらい目を惹く。


そして実は繊細でとびきり優しいところも。

雨や風に吹かれてすぐに散ってしまう花びらみたいに、儚くて脆い。


その何もかも、苦しいくらい愛おしい。



彼女は知らないだろう。


俺がこれだけ優しくするのは美桜だけだってことも
しつこく心配するのは下心しかないってことも。

すれ違う時に目が合うだけですっげぇ嬉しいってことも。

委員会が結構楽しみだってことも。





美桜に出会ってしまったせいで他の女の子をなんとも思わなくなってしまったことも。

何度か告られたけど好きな人がいるからって断ってることも。


萩原のことどうにかしてぶっ飛ばせないかと思っていることも。

美桜の気持ちが一刻も早く萩原から離れますようにって、柄にもなく神頼みしちゃったことも。


彼女は、知らない。