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『誰かのための秋斗くんってわけじゃないんだから勝手に掲げられた理想に応えようとする必要なんてないよ』


…不思議なことを言うなと思った。



佐倉美桜

春っぽい名前のバカみたいに明るい隣の席のクラスメイト。


深い茶色のセミロングのサラサラの髪。
透き通るような白い肌と桜色の唇。

少し吊り目よりの大きな瞳は、人よりかなり薄い色をしていてよく光を受けている。

フランス人形みたいな華奢な身体とは似つかないほど真っ直ぐで強い意志を持った綺麗な子。



そんな彼女はどうやら俺のことが好きらしい。

本人は隠してるつもりらしいけど、あそこまで分かりやすければ嫌でも気づく。



いつもバカみたいに突っ走ってる割には…
不意に、核心をつくかのような言葉を吐く。
全て見透かしたような深い目をする。


この前もそうだった。

どういうわけか、疲れからか解放感からか、言うつもりもなかった本音がこぼれた時

佐倉はそんな不思議なことを言った。



佐倉にとっても好きな人の理想像ってものがあるはずだ。

俺が好きだって言うなら、俺をそこに当てはめたいに決まってる。


それなのに
あんなことを言われるとは思いもしなかった。


だから少し動揺した。それだけの話。

それ以上の感情ではない。


はずなんだ…



秋斗side